☆父の認知症発症に気付くまでは☆



父は認知症である。
アルツハイマー型認知症である。

十年前の2006年に脳梗塞になり
脳梗塞由来の物忘れが起きていたが
2009年頃から明らかに違う症状が現れていた。

脳梗塞由来の物忘れは
過去の記憶が断片的に消えてしまうが

アルツハイマー型認知症の場合は
たった今のことを忘れてしまうのだ。



息子の自分がかつて勤めていた会社を
「住宅会社だったのか!」と

初めて聞いたかのように驚いて見せたのが
2009年のことだった。


親戚が大勢集まっている場でのこと
この人は息子に関心が無いのか?
と皆に思われたに違いない。

しかし父は物覚えの良い人である。

何十年も前の出来事を
今体験したことのように説明が出来るのだ。


ただし空気の読めない人でもある。

わざと驚いて見せるのは朝飯前。
人を平気で傷付けるのは日常茶飯事である。

自分も親戚と同じように
この人は息子に関心が無いのだと受け取った。

だが父の悪びれない
全く身に覚えのないといった表情だけが
妙に心に残った。



翌2010年
家族3人でレンタカーを使い道後温泉を巡った。

道中のサービスエリアでトイレ休憩。
父はレンタカーに戻って来なかった。

ほんの10分前に停めた場所が
全く思い出されなかったのである。

うっかり間違えたと父は笑うが
明らかに脳梗塞由来の物忘れと違う
別の症状が出ていると確信した。



2011年
父の運転免許証更新時期がきた。

運転技能検査で多少問題アリとなった。

明らかな衰えではなかったが
事故を起こす可能性が高いとの判定だった。

父は2009年にもらい事故に遭っていたのだが
そのときの証言に違和感があった。


片側二車線の道路を走行中
道路脇から出てきた高齢者の軽トラックに当てられ
愛車が廃車になったのだ。

左前輪が車体に深くめり込む被害だった。


「スーパーから軽トラックが突然出て来た」

見通しの利く主要幹線道路で
長年に渡って何度も行き来していた道である。

父の車に同乗していた会社の同期の面々が
軽トラックに気付き声を上げたらしい。

「避けられたのでは?」

そのことを問いただすと
急に口をつぐんで喋らなくなってしまった。

都合の悪いことは頑なに押し黙るのだ。



運転技能結果を受けて 2009年のことが頭をよぎり
父には運転免許証を返納するように説得した。

「ゴルフに行けなくなるじゃないか!」

その頃すでに
ゴルフ場に辿り着けないことが何度かあったのだが
そのことは頭に無いらしい。

「タクシーを使うか同僚に乗せてもらって」

母の訴えにだけは素直な父は渋々承諾してくれた。



2011年当時父は74歳。

世間的にはまだまだ元気な年代だが
車を運転させるには危険だと判断した。

アルツハイマー型認知症だと
まだ診断は出ていなかったのだが
かなり危険性が高まっていると感じられたのだ。

(H28.12.01)




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